バリ島旅行記:トゥンガナン
夏休み前のせいか、バリ島の地名で検索してたどりつく人が多いもよう。それで思い出して、書きかけのままになっていた1年前の旅行記の続きを書くという無謀な試みです。しばらくしたら本来の日付にバックデートします。
2008年7月1日
チャンディダサを出て、ティルタガンガへ行く前にバリ・アガ(原住民といわれている人たち、ヒンドゥのバリとはまた違った文化を保持している)の村トゥンガナンへ寄る。見たいのは有名なグリンシン、ダブル・イカットと呼ばれる技法で織られる布である。
イカットとは絣のこと。先染めによる柄織りである。普通の絣は、経(たて)糸のみを絞染めにしてから織ることで柄を出す。ダブル・イカットの場合、緯(よこ)糸もデザインに従って染めてから織る。というと大して違わないように聞こえるかもしれないが、実はこれがすごいことなのだ。
機の形を考えてみれば分かる。経糸は、出来上がりと同じ長さの複数の糸を織機にかける。だから、染め方は比較的わかりやすい。いわば、糸一本分の幅で柄をスキャンしたパターンをBBBRYRRYというように色記号化し、そのまま経糸上に再現するわけである。それだって二色、三色と精緻な絞染めを行うのはたいへんな手間である。
だが緯糸は・・・経糸と違っていわば一筆描きである。グリンシンの幅は短いもので二十数センチだから、その長さで折り返しながら柄をたどっていかなければならない。上のパターンだとBBBRYRRY/YRRYRBBBとなる。考えるだけで気が遠くなるというか、どうして頭の中だけでそんなことができるのか想像がつかない。まるで、DNAの鋳型なしに絞染めでRNA鎖を構築して、それでタンパク質を作ろうとするようなものだ・・・
ともかく、村は広場に沿って家々がものすごくきちんと並んでいるのが印象的だ。もしや、この人たちの世界は無数のセルが組み合わさった長方形でできているのだろうか?
ワークショップになっている一軒を見学する。工程を写真で説明したパネルもあって興味深い。リーダーらしい女性が話しかけてきて、いろいろと教えてくれる。糸を染め始めてから一枚織り上げるのに短くて数か月、長くて数年かかること。染めを繰り返す回数で発色のよしあしが決まること。柄をきちんと出すためには、染色の正確さに加えて、微妙な調整を加える織りの腕もなければならないこと・・・
が、おそらく出来上がりを大きく左右するのは、全工程のうち最初の部分──二次元のデザインを一次元に分解し、糸の上に再現するためのプランを立てるところなのだろう。後工程にかかる長い年月と膨大な手間は、このシークエンスの精度を信用して費やされる。「あ、ここ間違ってました」ではすまされないのだ。
染めあがった糸の束も見せてもらった。とうぜん、藍・赤・黄が脈絡なくまだらに並んでいるようにしか見えない。冗談で「これだけ見て何の柄かわかるの?」と問うと、わかるのだという。それを聞いてこの布が魔除けの力を持つことが信じられる気がした。違う世界、違うマインドに触れてぼうっとした頭で山を下り、三叉路(これの右左折がわかりにくい)でうっかり逆走して事故りそうになりながら、アンラプラを通ってティルタ・ガンガへ向かう。
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